下宿屋さん
2016/06/04
京都のとある場所に、築30年を超える下宿専用のマンションがあります。
鉄筋コンクリート建てでしっかりしていますが、風呂が共用であるなど新しい下宿との競争には不利で、人気のある下宿が埋まった入学式間近にようやく入居希望者が見学にやってきます。
保護者の了解もなしに駆け込みで入居申込みをしてきた男子学生は、駅のコインロッカーに預けたわずかな荷物とともに入居し、家具も布団もない有様でした。
そのとき貸した布団が諦めかけていた頃に戻ってきたので話をしてみると、父子家庭で苦労をしているようでした。
今どきの親子同伴の入学式など望むべくもないけれど、毎日元気に百万遍に通っている彼の強い姿に、家主である80代のおばあちゃんは元気をもらっているそうです。
今出川に通う4回生の女子学生は、マスコミに就職して作家担当になることだけが夢で駆けずり回っています。
4年間親からの仕送りは一切なく、一日3件のアルバイトを掛け持ちで乗り切りました。
夜行バスで東京への会社訪問をこなし、ついに1社の内定をもらったと聞いて胸を撫で下ろしたそうです。
高くない家賃は今もって現金手渡し。
「振込み手数料でパンが買える」という学生の弁に、なるほどなと、おばあちゃんは妙に納得したそうです。
こんな昭和な下宿が今も存在して、エネルギッシュな若者たちがこれからの日本を支えていってくれる。
訥々と語られる内容とおばあちゃんの人柄にあたたかいものを感じた一日でした。